黒岩敏幸

1992年に開催されたアルベールビルのスピードスケート500mで銀メダルを獲得して以来、リレハンメル、長野と2大会連続でオリンピックに出場した黒岩敏幸さん。現役時代、輝かしい戦績を残した黒岩さんもですが、実は大学に進学するまでは、目立つタイプの選手ではなかったと言います。「それぞれのオリンピックを通して自分の立ち位置を見つめ、成長してきた」と話す黒岩さんが得たものとは?

Profile

黒岩敏幸(スピードスケート)
くろいわとしゆき
1992年アルベールビルオリンピック銀メダル
1998年長野オリンピック日本代表
JADAアスリート委員(~2018)
2013-03-21

黒岩敏幸群馬県の嬬恋村(つまごいむら)生まれ。地元はスケートが盛んで、3歳の頃から天然でできた田んぼリンクでスケートを始めました。小学4年生からは課外活動でスケートクラブに入り、毎日、暗くなるまでスケートの練習に打ち込むように。そんな黒岩さんが初めてオリンピックのすごさを実感したのは、中学3年のことでした。
 
黒岩:嬬恋に苗字が同じの黒岩彰さんというスピードスケートの選手がいたんですね。その彰さんがサラエボオリンピックに出場したときに、村を挙げて応援したんです。テレビの前に皆が集まって、村長さんまで登場して、それはすごい騒ぎでした。メダルは取れませんでしたけど、「これほどまでに人を感動させるスポーツってすごいな」と感じました。取材に来ていたマスコミの方に、「将来の夢は?」と聞かれて「オリンピック選手」と答えたことを覚えています。

しかし、実はこの時、黒岩さんは内心では自分がオリンピックに出られるとは夢にも思っていなかったと言います。というのも、その頃は結果が出ない目立たない選手の一人。20人の大会に出て5位という成績が精一杯だったからです。

そんな黒岩さんでしたが、テレビで見たサラエボオリンピックの感動を胸に、人一倍の努力を続け、高校3年生の時には初めてインターハイに出場して2位を獲得。その後、日本大学に進学し、さらにトレーニングを重ねていきます。

黒岩:スケートの練習で一番きついのは、実は夏場なんです。走り込みや自転車、ローラースケート、ウェートトレーニングなど厳しい練習に耐えると、冬場に結果が出てくる。大学に入ってからは周囲にトップ選手がたくさんいたので、彼らの考え方や練習法などから学び、自分の競技に生かしていきました。

そして、ついに1992年のアルベールビルオリンピックの出場権を獲得するまでに成長。いきなり銀メダルを獲得する快挙を成し遂げ、日本中を沸かしました。

黒岩:国際大会を転々とし、そのままオリンピックに出場したので、「規模が大きなワールドカップ」くらいの気持ちで臨みました。日本の状況がほとんど分からなかったため、リラックスして滑ったのが良かったのかもしれません。

アンチ・ドーピングへの高い意識を

オリンピックで結果を残し、一躍時の人になった黒岩さん。しかし、その後、思わぬスランプに見舞われます。

黒岩:帰国し、成し遂げたことの大きさを知ったことで、自分を見失ってしまったんですね。その後の大会はなかなか結果が出なかったうえに、怪我も重なり、どんどん精神的に追い込まれていってしまいました。「今回は、黒岩は駄目だ」なんて声も聞こえるようになってきて・・・。

kuroiwa01それでも、なんとかリレハンメルの切符を手にし、迎えた2回目のオリンピック。メダルを取ることはできませんでしたが、アスリートとして大きな成長を掴んだ大会だったと言います。

黒岩:前回は右も左も分からず、自分だけのために滑っていたオリンピック。でも、リレハンメルはそれまで支えてくれたすべての人のために滑りました。初めてのオリンピックの時より力は落ちていたかもしれない。でも、精神的にはこの時の方が強かったと思いますね。次の長野オリンピックでは、「周りの人のため」からさらに踏み込んで、「日本中の人のため」と考えるようになり、清水宏保や堀井学など、若い選手が結果を残せるように雰囲気作りに力を入れました。国内大会だったこともあって、日本中に感動を届けたいと思ったんです。

それぞれのオリンピックを通して、精神的に成長していった黒岩さん。そんな、黒岩さんが考えるリアルチャンピオンとは、心技体に加えて「礼」が備わった選手だと言います。

黒岩:礼にはいろいろな意味がありますが、まずは人を敬い、ルールを守ること。強い選手ほど、人に与える感動は大きいですが、その分、大きな失望を与えてしまうことにもなりかねない。礼を重んじて、人格的に尊敬される選手にならなければ、リアルチャンピオンとは言えません。トップアスリートは大会中に差し入れのドリンクは飲まない、禁止物質を購入されないようにボトルを肌身離さず持っているなど、ドーピングに関して高い意識を持っています。そこまで徹底するのは、自分の影響力が大きいことを理解しているからなんです。

自分を律し、期待を裏切らないという使命感を持つことがトップ選手の条件。スポーツを見て楽しむ方も、「それくらい気を使っているんだ」と理解すれば、正々堂々と戦った選手を見た時に、より大きな感動を味わえることでしょう。